「王様の耳はロバの耳」というお話は、イソップ童話の有名なお話です。
お話のあらすじを知らない人でも、「王様の耳はロバの耳」という秘密を穴に向かって叫ぶという部分だけは知っているのではないでしょうか。
子供向けの童話ではありますが、じつは深い意味が込められているとも考えられるのです。
このお話はギリシャ神話がもとになったとも言われていますので、子供に神話を伝える目的もあったのかも知れません。
どんな内容なのか、詳しく見ていきましょう。
「王様の耳はロバの耳」のあらすじ
ある国の王様は、いつも帽子を深くかぶっています。
耳まですっぽりと帽子をかぶっているので、誰も王様の耳を見たことがありませんでした。
ですが、髪を切る時には帽子を脱がなけれないけません。
ということは、王様の髪を切る床屋さんは耳を見たことがあるはずです。
ところが、王様の髪を切るためにお城に呼ばれる床屋さんは、誰も戻ってこないのです。
それが国の中でウワサになり、床屋さんたちはビクビクしていました。
ある時、恐れていたことが。
王様の髪を切るようにお城に呼び出された若い床屋の男。
恐る恐る王様の部屋に入ると、そこにはロバの耳をした王様が座っていたのです。
床屋は驚きましたが、そこで笑ったりすれば処刑されてしまうと思い、態度を変えないようにガマンしました。
王様は「この耳のことは誰にも言ってはいけない。もしも秘密を漏らした時には処刑する」と言い、床屋に髪を切らせました。
床屋は黙って髪を切り、城から戻ってきました。
きっと今まで戻ってこなかった床屋たちは、王様の耳を見て笑ってしまったのか・・。
それとも秘密を漏らして処刑されたのか・・。
とにかく絶対に秘密を守らなければいけないと固く心に誓ったのです。
その後も床屋は王様の髪を切るために城に出向くようになります。
しかし、周りから色々と聞かれるたびに、秘密を黙っているのが苦しくなってきます。
その苦しみから解放されるために、秘密を大声で叫びたくてたまらなくなりました。
ですが、そんなことをすれば処刑されてしまいます。
思い悩んで森をさまよっていると、古い井戸を見つけました。
「そうだ、井戸の中の向かって叫べば誰にも聞こえないはずだ」と床屋は井戸に頭を突っ込みます。
大声で「王様の耳はロバの耳」と何度も叫んだのです。
スッキリした床屋は街に戻ると、街中大騒ぎになっていました。
なんと、森の中の古井戸は国中の井戸につながっていて、「王様の耳はロバの耳」と叫んだ声はみんなに聞こえてしまったのです。
王様は激怒しましたが、国じゅうの民に知られたのですから、今さら床屋を処刑しても仕方ないと諦めます。
そして民に向かって「私の耳は民の声をよく聞くために、このようになった」と言ったのです。
それを聞いて民は王様の耳を見ても怖がらなくなったのです。
もとになったギリシャ神話とは
「王様の耳はロバの耳」は、王様の耳がロバの耳になった理由が描かれていません。
もとになったギリシャ神話によると、神を怒らせてロバの耳になったようです。
ギリシャ神話に登場するミーダスという人が、「王様の耳はロバの耳」の王様のモデルになったと言われています。
笛の神と琴の神が演奏を競ったときに、民衆は琴の神の演奏が素晴らしかったと言いました。
しかしミーダスは自分が信じている笛の神の演奏の方が優れているとして、異を唱えたのです。
琴の神は怒り、ミーダスに「そんな耳はこうしてやる」と言ってロバの耳に変えてしまったのです。
このギリシャ神話がもとになったことから、「王様の耳はロバの耳」の結末に神話を盛り込んでいる本もあります。
床屋を許して、民の声をよく聞く王として努力したことから、琴の神が許してロバの耳をもとに戻したという結末になっているのです。
王様の耳がなぜロバの耳になったのかというそもそもの疑問からしっかり描かれている本があれば、ギリシャ神話がもとになったお話だとしても子供にわかりやすく伝えられますね。
「王様の耳はロバの耳」が伝えること
「王様の耳はロバの耳」のお話は、色んなバージョンがあります。
たとえば床屋さんが次々に消えていくという描き方をしている本もあれば、最初から1人の床屋さんに秘密を守らせるという描き方もあります。
床屋がお城に呼ばれると次々に消えていくのは、子供には怖いですよね。
この童話が伝えているのは、大きく3つあります。
①秘密を抱えること
ずっと秘密を抱えているのは精神的にツラいものです。
このお話では、床屋さんは秘密を守ることが苦しくなって、病気になるという描き方をしている本もあります。
秘密から解放されることで病気が治ると医者に言われて、井戸に叫ぶという方法を考えたというわけです。
つまり、秘密は守らなければいけないが、それをずっと守り続けるのは心身的な負担が大きいという教訓です。
②秘密は漏れること
どんなに注意を払っていても、秘密はどこから漏れるのかわかりません。
このお話では、井戸が国じゅうにつながっていました。
秘密にしているつもりでも、隠し通せるものではないという教訓です。
③許す心
「王様の耳はロバの耳」では、床屋を許す王様が民から支持されます。
そして、もとになったギリシャ神話では、床屋を許した王様の寛容な心を見て、神も許して耳をもとに戻します。
許す心の大切さを説いているのではないでしょうか。
まとめ
「王様の耳はロバの耳」は、ロバの耳をした奇妙な王様がなぜその姿になったのか知らないままでは、お話の本質がわからないのではないでしょうか。
子供の読み聞かせる童話には、ぜひもとになったギリシャ神話のこともわかるような描き方に統一して欲しいものだと思います。