「泳ぎの医者」という落語から見える時代背景!現代なら大事件?

落語の人

落語の演目には、医者が登場するものが数多くあります。

新作落語にも多いですが、古典落語にもあります。

落語の演目にしやすいのは、現代も医療系ドラマが多いことと通じるのかも知れません。

誰もが医者という存在には、何かしらのイメージを持っています。

病気やケガを治したい患者やその家族にとっては、まるで神様のような存在に見えることもあるでしょう。

しかし、今のように医者になるためには試験を合格しなければならないという制度もなかったため、藪医者も相当多かったのではないでしょうか。

落語に登場する医者は、名医もいれば藪医者もいます。

「泳ぎの医者」に登場するのは、どんな医者なのでしょうか。

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「泳ぎの医者」のあらすじ

江戸から少し離れた農村に佐右衛門という庄屋がいました。

左右衛門が所用で数日留守にしている間に、娘が病に伏せってしまいます。

困ったおかみさんは、村のはずれにいる医者を下男の太助に呼びに行かせます。

腕の良い医者という評判は聞いたことはなくとも、苦しむ娘を見ていると少しでも早くなんとかしたいという一心だったからです。

太助に連れられてやってきた医者は甘井羊羹という名で、落ち着き払って自信ありげな表情をしている。

床についている娘の脈をとり、口を開けさせて舌を診るなどして、煎じ薬を渡して「また明日、様子を見に来ます」と言って帰っていった。

早速、渡された薬を煎じて娘に飲ませてみると、一口飲んだあとに、顔色が良くなり、苦しそうな表情が緩んだのでおかみさんも太助もホッとしたのだが、それもつかの間だった。

二口目を飲むと、急に娘は苦しみ出して死んでしまったのだ。

渡された薬がよほど強い薬だったのか、娘の体はまるで焼けたようにただれていた。

そのとき、ちょうど佐右衛門が帰ってきた。

娘の変わり果てた姿を見ると泣き叫び、いきさつを聞いて今度は激怒する。

佐右衛門は太助に言いつけ、甘井羊羹を家におびき寄せた。

「娘はすっかり回復したので、ぜひお礼がしたいと主人が言ってます」と太助に言わせたのだ。

佐右衛門は考えた。

娘は火で焼かれたように苦しかったはずだから、藪医者は水責めで苦しめてやろうと。

翌日、たっぷりお礼をもらえるとウキウキしながら甘井羊羹は出かけたが、佐右衛門の家に入ると、亡くなった娘の姿を見せられた。

言い訳をする間もなく、佐右衛門と太助に荒縄で縛り上げられて、真冬の凍てつくような川に放り投げられた。

必死でもがいていると、縄がほどけたのだが、この甘井羊羹という医者は泳ぎができません。

溺れそうになりながらも、何とか岸にたどり着くと一目散に家に逃げ帰りました。

寒さと恐怖でガタガタと震えながら家に入ると、息子にむかって「おい、逃げるぞ。この村には居られない!さっさと家財道具をまとめよう」と言うと、本を読んでいた息子が顔をあげた。

甘井羊羹は息子に聞く。

「何を読んでいるんだ?」

「私も父上のような立派な医者になりたいので、医学書を読んでます」と息子は答えたのだが・・

「バカモノ、医者になるには、まず泳ぎを習え」

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医者になるための資格

江戸時代のドラマや映画などを観ていると、医者と呼ばれる人物が登場します。

しかし、江戸時代までの医者は、今のような医師免許を取得するための国家試験もなく、自己流で勉強した者でも医者になれたのです。

明治7年から医術開業試験という今の医師免許のもとになるような資格試験がスタートしますが、それまでは自称で医者になれる時代だったのです。

そのため、迷医もずいぶんと湧いて出たようで、「泳ぎの医者」に出てくるような藪医者もこの時代なら珍しいことでもなかったのかも知れません。

今の時代なら、大事件になり、全国に悪名があっという間に広まったでしょう。

意外にある免許不要の職業

明治時代以前の医者は資格不要というのは、考えてみればとても怖いですよね。

命を預けるのに、自己流、独学でも医者になれるなんて・・。

現代では考えられないことですが、じつは今でも人の体に関わる職業なのに免許や資格が不要というのはあるのです。

たとえばカイロプラクティックやリラクゼーションサロンです。

マッサージ、指圧、鍼灸、整骨など医療行為として行うためには、国家資格が必要なのですが、カイロプラクティックやもみほぐしなどを行うリラクゼーションは資格が要らないのです。

アメリカではカイロプラクターになるには医療の専門職として資格が必要なのですが、日本では不要というのが不思議ですね。

柔術整復師、あん摩マッサージ指圧師の資格を取得すれば、医療行為として健康保険の適応になるのに対して、カイロプラクティックやリラクゼーションは医療行為ではないので保険適応外です。

素人には、その違いがわかりにくいのですが、やはり資格取得しているというのは安心感が圧倒的に違いますね。

まとめ

「泳ぎの医者」のほかにも、古典落語にはちょっと変わった医者が出てくる演目が多数あります。

また別の機会にご紹介したいと思います。

それにしても、甘井羊羹なんてふざけた名前の藪医者にだけは、診て欲しくないものですね。

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