【芝浜】という落語にはツッコミどころが満載?登場人物の性格分析

落語の人

「芝浜」といえば、とても有名な古典落語です。

落語にあまり馴染みのない人でも、あらすじくらいは知っているのではないでしょうか。

じつはこの演目は、噺家が寄席で即興で作ったという説もあったり、いくつかの演目を混ぜ合わせたという説もあったりします。

古いことなので、確かなことはわかりません。

ただ言えることは、「芝浜」という演目は、落語家によってずいぶんとニュアンスが変わるということです。

それは「芝浜」に限ったことではないのですが、それはこの噺に限ったことではないのですが、登場人物のキャラクター設定そのものに違いを見せることもあるので、色んな噺家の「芝浜」を聞きたくなるのでしょう。

「芝浜」の主な登場人物はたった2人です。

それなのに、演目そのもののニュアンスを変えてしまうほどのキャラ設定とはどういうことなのか。

掘り下げてみました。

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「芝浜」のあらすじ

魚の行商で生計を立てている勝五郎は、無類の酒好きなのが欠点でした。

魚屋としては腕も良いのに、酒好きのせいで商売を台無しにしてしまうこともありました。

せっかく活きの良い魚を仕入れても、商売の途中で誘われると、魚のことを忘れて飲んでしまう。

そんなしくじりばかりを繰り返すうちに、ほとんど商売が成り立たなくなってしまったのです。

ある朝、勝五郎は夜明け前に女房に起こされます。

「今日こそは商売に行ってくれないと、御飯が食べられないよ」と背中を押して送り出しました。

夜明け前に家を出たものの、まだ芝の河岸(市場)が開くには早いので、勝五郎は芝の浜で少し時間を潰すことにしました。

そのとき、波打ち際に革財布が落ちているのを発見します。

中を見ると、見たこともないような大金が入っていました。

勝五郎は驚いて、商売そっちのけで家に帰ります。

そして女房に酒や料理を手配させて、近所の知り合いを呼んでどんちゃん騒ぎをはじめたのです。

翌朝、勝五郎が目を覚ますと、飲み食い散らかした状態のままでした。

女房は「お前さん、こんなに派手に飲み食いしたけれど、支払いはどうするんだい?」と詰め寄ります。

勝五郎は「何を言ってるんだ!昨日の金で払えばいいじゃないか」と言い返しますが、女房は怪訝な顔をして「昨日の金?何を言ってるんだい?」と。

勝五郎が芝の浜で拾った財布のことだと言い放っても、女房とは一向に話がかみ合いません。

「お前さん、普段からそんなあぶく銭の事ばかり考えているから、そういう夢でもみたんじゃないのかい?」とあきれ顔です。

勝五郎は徐々に自信を失っていきます。

もしかしたら、ほんとうに自分の夢だったのか・・・・

だとすれば、こんなに派手に金を使ってしまった!!どうすればいいんだ!!

勝五郎のうなだれた様子を見て、女房は「今回は何とかするよ」と金の工面をすると言ってくれたのです。

さすがに今回のことで目が覚めた勝五郎は、真面目に商売に取り組みます。

するともともと腕の良い魚屋なので、どんどん繁盛して三年後には一軒の店を持つまでになったのです。

その年の大晦日、女房は勝五郎に真実を打ち明けます。

現代でもそうですが、昔も拾った金銭を届け出もせずに懐に入れてしまうのは犯罪でした。

女房は大家さんに相談して、勝五郎には夢だと嘘を言って財布ごと役人に届け出たのです。

そして落とし主が見つからなかったということで、その金は勝五郎のものとなったわけですが、金が入ればまた真面目に仕事をしなくなるのを心配して、真実は隠していたのでした。

しかし、今の勝五郎を見ていて、もう大丈夫だと確信して、女房は真実を告白します。

そこまで考え抜いてくれた女房に、勝五郎も感謝を伝えました。

女房は「お前さん、久しぶりに一杯どうですか?」と盃を差し出すのですが、勝五郎はこう言います。

「やめておこう、また夢になるといけない」

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勝五郎の人柄

勝五郎の人柄は、大きく2つのタイプに分かれて演じられています。

荒っぽく短気な性格

勝五郎は、そもそも天秤棒をかついで行商する魚屋です。

威勢の良い江戸っ子で、短気で少し荒っぽい性格として演じられることが多いです。

それは江戸っ子特有のチャキチャキっとした言葉使いが、そう見せることもあるのかも知れません。

そのキャラクターから、女房から真実を打ち明けられた時に、思わず声を荒げて手をあげようとするような短気な男として描かれることもあったのでしょう。

典型的な小心者

勝五郎が酒好きという点から、じつはとても気弱な小心者な性格という考察もあります。

気の小さい人ほど、酔ったときに人が変わったように強気になるというのは、よくある話です。

ほんとは小心者で、真面目な人間だからこそ、心を入れ替えたあとにはコツコツと真っ当な人間になって働けたのではないでしょうか。

そうじゃなければ、女房に何年も嘘をつかれたことを、黙って受け入れることもないと思うのです。

女房の人柄

女房の人柄は、噺家によって色んなキャラクターで描かれています。

しっかり者

勝五郎が酒でしくじってばかりで、商売に行かなくなっても、女房は毎日キレイに桶を洗って準備をしていたというエピソードを入れる噺家がいます。

しっかり者で、口ではキツいことを言っても、旦那を支える良妻というのが「芝浜」の定番です。

戦略家

勝五郎が拾って持ち帰った大金を、そのまま役人に届けようとしても、きっと夫は納得しない・・・。

そう考えて、一度は派手にどんちゃん騒ぎをさせて、夢だったことにするだけでもかなりの戦略家です。

しかし、それだけではなく、何年にも渡って秘密にして真人間に更生させたのです。

良妻として描かれるのはもちろん納得なのですが、それ以上に賢さに感服します。

正直者

「芝浜」は女房のおかげで勝五郎が人生をやり直すという美談です。

夫婦の愛の深さを描く、人情話でもあるのですが、少し冷めた目で見ると、女房がバカ正直過ぎのような気がします。

一説には、勝五郎が拾った大金は、現代の価値にすると500万以上とも言われています。

それを「夢でも見たんでしょ」と信じ込ませたのです。

落とし主があらわれなかったため、その金は届け出た者に返されたので、女房はそのまま黙って隠していたわけです。

しかし、勝五郎がいくら真人間になったとしても、またいつ自堕落な生活に逆戻りするかなんてわかりません。

もしも私なら・・・そのお金はまさかの時のために隠し続けるだろうなと。

正直に告白して、それをありがたいと思う勝五郎なので、お似合いの夫婦なのでしょう。

まとめ

じつは「芝浜」には、勝五郎と女房のほかに、町内のまとめ役をするご隠居のような人物が描かれることがあります。

女房から拾った大金のことを相談されて、夢だと言って聞かせるように入れ知恵した人物として描かれることがあるのです。

しかし、他人の夫婦のことなのに、何年にも渡って誰にも漏らさずに秘密を守れるのはすごいことです。

ある意味、この人が一番すごいのかも・・。

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