「元犬」という古典落語はお子様向けの演目だった?

落語の人

落語と言えば、渋い演芸というイメージがあります。

歌舞伎も元々は庶民向けの娯楽だったのですが、いつの間にか伝統芸能のなかでも庶民との距離が少し離れてしまったような気がします。(ほんとはそんなことないんですけどね)

話を戻しますが、落語は若い世代の娯楽ではなく中高年の娯楽というイメージだけは、今も根強くあります。

一時的に落語ブームで若い世代のファンが増えましたが、やはり中高年の落語ファンには遠く及ばないのです。

ですが、演目の中にはどう考えても子供向けではないの?と思う噺もあります。

「元犬」もその一つです。

シニア層が多いのに、なぜ子供向けのような内容の演目があるのでしょうね。

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「元犬」のあらすじ

蔵前の八幡様の境内に住み着いている白い毛の野良犬は、みんなから「シロ」と呼ばれて可愛がられていました。

野良犬といっても、参拝者や近所の人たちから食べ物をわけてもらったりするので、人に慣れていました。

ある人がシロにこう言いました。

「お前は真っ白な毛をしているから、きっと来世は人間に生まれてくるよ」と。

シロはそれを聞いて嬉しくなり、どうせなら来世といわずに今世で人間にしてもらえないかと八幡様に願掛けをしました。

一生懸命にお願いしたのが届いたのか、ある日、強い風が吹くとシロは人間の姿になっていました。

そこへ犬のときに可愛がってくれた人が通りかかった。

声をかけると、裸の若い男が一人でウロウロしているのは気の毒だと思って、家に連れて帰ってくれた。

ところがシロは犬のときの習性が抜けないので、雑巾を絞った水を飲んだり、猫を見ると唸ったり、干物は頭からバリバリ食べたりと妙な行動が目立つのだ。

そのとき、毎日退屈しているから面白い奉公人を探している近所のご隠居のことを思い出した。

さっそくご隠居のところへ連れていくと、色が白くて見栄えの良い若い男だったので大いに気に入ってくれたのだ。

しかし、すぐにご隠居も男の妙な行動に気が付く・・。

「お前、生まれはどこだい?」と聞くと「乾物屋の裏の掃溜めです」と答える。

兄弟は三匹いたが、皆どで生きてるのがわからないと。

親の素性を聞いても、父親はブチの毛色で母親が白だったと・・。

何かおかしいとご隠居も思い始めたが、名前を聞くと「シロ」と答えた。

「そうか、お前の名前は四郎か、いい名前だ。よし、お茶でも飲みながらゆっくり話そう」というと、ご隠居はシロに「鉄瓶が沸いてチンチンいってないか見てきておくれ」と言った。

するとシロは「いや、私はチンチンはやらないんですよ」と答えたので、ご隠居はまた困惑する。

「チンチンいってないか見てくれるだけでいいんだよ」というと、シロは仕方なくチンチンをはじめたのだ。

驚いたご隠居は女中のお元(おもと)さんを「お~い、もとはいぬのか?(いないのか)」と呼んだのだ。

シロは「はい、人間になったのは今朝のことです」

白い犬の伝説

「元犬」という噺は、そもそも白い毛の犬は人間に近いという言い伝えがもとになっています。

どこでそういう言い伝えが生まれたのか、その真相はわかりませんでしたが、神様に近いとされる動物は他にもいます。

俗信として伝わっていることをもとに、この「元犬」は作られたのでしょう。

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子供向けの演目も必要だった

落語は色んなジャンルの芸人が出演する寄席で聞く機会が多いため、落語ファンだけではない観客も楽しませなければいけないわけです。

手品やモノマネなど、小さな子供も喜ぶような演目もあるので、子ども連れが目立つようなときは噺家は子どもが聞いてもわかるような演目を選ぶのです。

寄席に出る噺家は、前もって何の演目をするのは決めていません。

先に出た噺家が何の演目をしたのか、また客層はどうなのかを見ながら決めるのです。

落語には、本題の演目が始まる前に枕(マクラ)と呼ばれる前段階があります。

この時の様子や反応を見ながら、演目を決めるとも言われています。

客席にお子さんが多いなと思ったときには、「元犬」のようなお話も必要だったのではないでしょうか。

ただ、最後のオチの部分は、言葉遊びなので少々難しいかも知れませんけどね。

まとめ

「元犬」のなかに鉄瓶のお湯が沸くかどうかを「チンチン」という擬音で表現しています。

これが犬の一芸でもあるチンチンとかけているので面白いのですが、お湯を鉄瓶で沸かさない現代人にはわかりにくい部分です。

ちなみに、愛知県出身の私はすんなりわかります。

東海地方では「熱い」ことを「ちんちん」というからです。

方言なのかわかりませんが、ご高齢の方たちは今も使う言葉です。

他の土地では恥ずかしくて使えませんけどね・・。

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