「饅頭こわい」や「酢豆腐」に女性が出てこないのはなぜなんだろう?

落語の人

古典落語といわれる演目は、江戸時代後期から明治時代を時代背景として作られています。

今で古典と呼ばれるものでも、明治時代には新しい作品だったわけですから、面白いですよね。

落語ファンは、中高年が圧倒的に多いので、江戸時代や明治時代の文化や風習もよく理解できているから、古典落語を楽しむことができると思っている方も多いでしょうが、じつはそんなことはありません。

中高年でも江戸時代や明治時代の文化や風習に疎い人も多いし、若い世代の落語ファンの方がそのあたり時代背景をよく勉強している人も多いのです。

その時代をリアルに生きていない人でも、想像力で楽しめるのが落語の醍醐味ではないでしょうか。

時代を感じさせる演目は色々ありますが、今回は「饅頭こわい」や「酢豆腐」について考察してみました。

この2つの演目に共通するのは、町内の男たちが集まっていることから始まる点です。

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「饅頭こわい」と「酢豆腐」

「饅頭こわい」は前座噺と呼ばれる短めの演目です。

「酢豆腐」は「ちりとてちん」とよく似ていますが、寄席などではあまり聞く機会が少ないのですが有名です。

それぞれの話のあらすじをザックリですがご紹介します。

饅頭こわい

昼間から男たちが暇を持て余していました。

そこへ遅れてやってきた男が「ヘビがいて驚いて遠回りした」と言う。

「お前はヘビなんかが怖いのか?」とからかいながら、それぞれが自分の怖いものを順に言っていくという暇つぶしをはじめた。

クモが怖い、アリが怖い、ウマが怖いなど、それぞれが怖い理由を話していると、一人の男がなかなか怖いものを言おうとしないので、「お前には怖いものはないのか?」と皆が聞きたがった。

その男は小さな声で「饅頭」と言った。

周りの皆は「饅頭?そんなやつ見たことない」と言って大笑いしたのだが、男はホントに気分が悪そうな様子で「饅頭の話なんかしたから具合が悪くなった」と言って隣の部屋で布団を敷いて横になってしまった。

男たちは顔を見合わせて、悪巧みを考えた。

饅頭の話で具合が悪くなるほどなんだから、目の前に饅頭を並べたらどうなるか、面白そうだからやってみよう。

皆が饅頭を買い集めて、隣の部屋で寝ている男の枕元に並べてそっと様子をうかがうと、「これは一体どういうことだ!」と叫びながらムシャムシャと饅頭を食べている・・。

「お前、饅頭が怖いなんて嘘を言って俺たちを騙したな」と怒り、「ほんとは何が怖いんだ」と聞くと。

「そうだな、今は濃いお茶が怖い」

酢豆腐

夏の暑い日に町内の若い男たちが集まっていました。

宵越しの金を持たない江戸っ子たちが寄り集まっても、安い酒しか用意できず、つまみになるものが調達できず・・。

豆腐があったが、暑さのせいで腐っていた。

そこへ通りかかったのが、商売がうまくいっている大店の若旦那だった。

男たちは若旦那をからかって酒のつまみにしようと企み、「ちょっと寄っていきませんか」と声をかけたのだ。

若旦那をおだてると、一人がこう切り出した。

「じつは親類から珍味をもらったんだが、自分たちじゃ食べ方もわからない。若旦那なら知っているのでは?」と腐った豆腐を器に入れて差し出した。

若旦那はそれを見て「こいつは酢豆腐ですね」と知ったかぶりをして答えてしまった。

男たちは面白がって「どうやって食べるのか、若旦那が食べて見せてくださいよ」とお願いすると、若旦那は一口食べて目を白黒させて悶絶した。

さらに男たちは「どうぞもう一口」とすすめると、若旦那は「いや、酢豆腐は一口だけ食べるものなんです」と返したのだった。

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江戸から明治時代の女性

古典落語の舞台になっているのは江戸後期から明治中期くらいまでの時代背景が多いのですが、とくに江戸の町を舞台にした古典落語が多く残っています。

これは東京の娯楽が寄席を中心に発展したので、関西の上方落語を江戸風にアレンジしたものが古典落語として伝えられているからだと考えられています。

さて、なぜ「饅頭こわい」や「酢豆腐」のような落語には、男たちが暇を持て余している様子が見受けられるのに、女性は登場しないのか。

そこには2つの理由が考えられます。

女性が少なかった

江戸の町は、とにかく人口が多かったのですが、男女比のバランスがとれていなかったのです。

男性が多くて女性が少ないため、独身のまま生涯を終える男性も珍しくなかったようです。

一説には、女性から離縁できない決まりを作ったのは、男性が結婚するのは相当な苦労が必要だったからだと言われています。

逆に女性は男性から離縁されても、再婚の口には困らなかったとも・・。

そもそも女性が少ない時代背景が舞台になっているので、いい歳になっても独身のまま男同士で集まっているような演目が生まれたのではないでしょうか。

女性の仕事が多かった

江戸時代の女性は、じつは専業主婦よりも有職主婦が多かったそうです。

女性しかできない仕事も色々あったようで、それに加えて女性の割合が少ない江戸の町なので、結婚しても稼ぐ手段は沢山あったわけです。

しかも家事のほとんどは女性が担うわけですから、とにかく忙しいので暇を持て余しているような男たちに付き合ってられないという感じなのでしょう。

女性同士が顔を会わせる場所は、洗濯や洗い物をする井戸端だったので、いまだに井戸端会議という言葉が残っています。

しかし、当時の井戸端会議は忙しい女性たちが家事や仕事をしながら情報交換をしたり交友を深める時間だったのです。

今の井戸端会議(暇な人たちの無駄話)のイメージとは、かけ離れていたのですね。

まとめ

女性が少なかった、女性は仕事をしていた、女性はとにかく忙しかった。

「饅頭こわい」や「酢豆腐」に女性が登場しないのも、至極当たり前のことなのではないでしょうか。

暇を持て余す男たちと、仕事や家事、育児に忙しい女たち。

この対比は、もしかしたら現代にも通じる部分があるのかも知れません。

ワンオペ育児に疲れている女性たちの苦悩は、今に始まったことではないのかも。

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