「猫の皿」という古典落語(上方では「猫の茶碗」)は、短い噺ですが人間の業や欲がよく描かれています。
題名からもわかるように、猫が登場するのですが、とくに猫が化けるというような内容ではありません。
「猫の皿」を聞いて、何となく笑っているだけだった人も、登場人物の心情を深く想像しながら聞きてみると、また違う風景が浮かんでくるかも知れません。
「猫の皿」のあらすじ
江戸で古美術商を営んでいる男が、江戸から離れた田舎まで足を伸ばして掘り出し物を探しに行きました。
江戸時代の古美術商は道具屋とも呼ばれますが、店を持たずに露天商のような商売をする者も多かった時代です。
さて、この道具屋は日ごろから少々あくどい手法で商売をしていました。
物の価値のわからない人を言い包めて、安く仕入れて高く売るという商法です。
しかしこの日の収穫はほとんどなく、儲けになりそうな品物は手に入りませんでした。
諦めて江戸に帰ろうとしていた時、峠の茶屋で少し休憩することにしました。
その茶屋の主人は猫好きで、店の中には数匹の猫がのんびり過ごしています。
道具屋はエサを食べている猫をぼんやり眺めていました。
すると、猫のエサが盛られている皿が絵高麗の梅鉢であることに気が付きます。
とても貴重な品で、300両は下らない高価なものです。
道具屋は考えます。
「絵高麗の梅鉢で猫にエサを与えるなぞ、この主人は器の価値を知るわけがない」と確信するのです。
すると道具屋は急にやさしい声色になり、エサを食べていた猫を抱き上げます。
そして猫を撫でながら茶屋の主人にこう言います。
「うちで可愛がっていた猫が死んでしまい、家内が寂しがっているんだ。この人懐こい猫を譲ってもらえないだろうか」
茶屋の主人は少し考える様子を見せます。
「もちろんタダで譲ってくれとは言わない。3両でどうだろう」と言うと、主人は承諾しました。
そして道具屋はさりげなく切り出します。
「猫は器が変わるとエサを食べないというからね。この子が食べてたこの皿も一緒に貰っていくよ」と懐に入れようとしました。
すると茶屋の主人は「そんなことありませんよ、この皿でも喜んで食べます」といかにも安物の茶碗を手渡そうとしました。
「いえいえ、その皿は絵高麗の梅鉢といって300両は下らない高価なものなので、それは差し上げられません。」
というのです。
道具屋は動揺しながらとぼけた様子で「そうなのか!それは知らなかった!しかし、だったらなぜそんな高価な器で猫にエサを食べさせているんだい?」と聞くと・・・
茶屋の主人は「この皿でエサを食べさせていると、ときどき猫が3両で売れるのです」
どちらが強欲か
「猫の皿」をはじめて聞いた時、道具屋の男はなんて強欲で悪い商売人なのかと思う人が多いでしょう。
きっとこの道具屋は、高価な絵高麗の梅鉢を手に入れた後は、さっさと猫をどこかに捨ててしまうに違いないと憤慨したのは猫好きの筆者の感想です。
しかし、何度も演目を聞いているうちに、茶屋の主人の方が強欲で悪い人間に見えてきました。
この主人は、高価な器に猫のエサを盛り、わざと客に見えるような場所で食べさせていたわけです。
まさに確信犯ではないでしょうか。
3両を手に入れるために、猫をオトリに使うなんて、強欲でイヤな人間だなぁ・・と感じたのです。
まとめ
「猫の皿」という古典落語には、2人の登場人物しかいません。
よく聞いてみると、2人とも欲が深くて、何とか得しようとしています。
茶屋の主人の方が一枚上手ですが、欲の深さではいい勝負ではないでしょうか。