「目薬」という落語に登場する夫婦はとても素敵だ!

落語の人

「目薬」という落語には、熊という大工職人とその女房が登場します。

この夫婦のやりとりがなんとも滑稽で、短いながらも面白い演目です。

落語には夫婦が登場する演目はとても多いのですが、どちらかがしっかり者でどちらかがとぼけた感じの夫婦が多い印象があります。

しかしこの「目薬」に登場する夫婦は、どちらも滑稽で面白いんですよね。

それに、ただ滑稽だけじゃない素敵な夫婦の姿が見えるのです。

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「目薬」のあらすじ

夫婦で長屋暮らしをしている大工職人の熊さん。

困ったことに目の病になってしまい、しばらく仕事にいけなくなってしまった。

稼ぎがないので米を買うこともできなくなり、夫婦でさつま芋ばかり食べている毎日だった。

しかしこのままではいつか芋すら食べられなくなってしまう・・。

女房は親類のおばさんに頼み込んで薬を買うためにお金を借りることにした。

その足で女房は薬屋により、眼病の薬を買って家に帰り熊さんに渡したが。

「おい、これは粉薬じゃないか!どうやって使うんだよ」と熊さんは困ってしまった。

女房は「仕方ないじゃないか、これしか買えなかったんだから」と言い返す。

しかし熊さんがその薬の袋をジーっと見ると、ぼんやりとだが能書きがあるのに気が付いた。

※能書きとは薬の効能使用方法を説明する取扱説明書のようなものです。

「ひらがなだから何とか読めそうだ!なになに・・このくすりはみみかきいっぱい・・・つぎの字がわからないな。おい、おまえ読めるか?」

「あたしゃ字が読めないのを知ってるだろ?字が読めるくらいなら、あんなのところに嫁に来ないよ」

(明治時代は学校に行かない子供もいたため、読み書きができない大人も少なくありませんでした。読み書きができない人が登場する演目もいくつかあります。)

「しかしこの字、どっかで見たことがあるな。ちょっと見てくれよ」

「あれ、この字はあたしも知ってるよ。湯屋(銭湯)の暖簾に書いてある女湯の女じゃないかね」

「おお、そうだそうだ、たしかに女湯の女ださすが女だねよくわかったもんだ

「なんだい、そのほめ方は」

「しかしそのあとに、しりにつけるべしと書いてある。女の尻につける?いったいどういうことなのかわからないが、そう書いてあるから仕方ない」

「目が悪いのはおまえさんなのに、どうしてあたしの尻につけるんだい?」

「そんなの知ったこっちゃない!おまえが買ってきた目薬の能書きにそう書いてあるんだから」

「まったく、しょうがないねぇ」

そういって女房は渋々着物をまくって尻を出した。

「おい、みみかき一杯ってどのくらいだ?耳かきはどこにある?」

「そんなこと、尻出す前に言っておくれよ。ちょっとでいいんだよ!」

熊さんは目薬の粉を少し手に取ると、女房の尻につけようとするが、くすぐったがって動くためこぼれてしまう。

仕方なく山盛りにして「おい、動くんじゃないよ」と言ってつけようとするのだが、女房はくすぐったいやらオカシイやらで、笑いをこらえるのにお腹に力を入れてガマンした。

あまりお腹に力を入れたもんだから、大きなオナラがブーっと出た。

芋ばかりを食べていたから、それはもうスゴイ勢いで、粉の目薬が吹き飛んでしまった。

「おい、やるならやると言ってくれないと、まともに顔にくらったぞ」

そういって、ふと熊さんは思った・・。

「なるほど、この目薬はこうやってつけるんだな」

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「女」と「め」は似ている

この「目薬」という演目は、「女」という文字と「め」という文字を読み間違えることがカギになります。

間違えるはずはないと思うかも知れませんが、読み書きを教わっていない人であれば、看板や湯屋の暖簾の文字は曲線つよめの丸みを帯びた字体で書くので似ているように見えるかもしれません。

夫婦そろって「女」を「め」と読み間違えることが、この滑稽な演目のベースになっているわけです。

江戸時代の識字率は全国平均60%、江戸で70%だったと言われています。

明治になってからも、学校に通わない子供もまだいたので、当たり前に読み書きができるという感覚ではなかったのですね。

夫婦仲の良さがにじみ出る

「目薬」に登場するこの夫婦は、とにかく仲が良いことがうかがえます。

職人の熊さんが目を患うと、稼ぐことができないので一大事です。

夫婦仲にも影響するような、深刻な問題のはずなのに、二人そろって芋を食べるというのがなんとも微笑ましい話です。

熊さんが患ってしまった眼病とは、いったい何なのか気になりますが失明が危ぶまれるような深刻な事態ではないことが伝わってきます。

また、読み書きができない女房に対して、見下すような態度はまったくありません。

女房の方も、読み書きができないことを恥じる様子もなく、堂々としたものです。

ある意味、この夫婦は現代よりも夫婦が対等な関係であることを伝えているように思うのです。

まとめ

芋ばかり食べているから、風圧の強いオナラガ出て粉薬が舞い飛ぶなんて滑稽なオチはじつにくだらないですよね。

しかしそのくだらなさのなかに、夫婦の支え合いが見えるのが幸せな気持ちにさせてくれるのです。

なんかいいなぁ・・と素直に思う演目なのですが、あまり寄席などで聞くことがありません。

難しいのか、それともウケないのかわかりませんが、もっと聞きたいと思うのは私だけではないでしょう。

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