落語【二番煎じ】は今も昔も変わらないルールを破る楽しみが見える

落語の人

「二番煎じ」という古典落語は、寒い季節になると思い出します。

冬になると空気が乾燥しますし、部屋を暖めるために火を使うので、昔から火事が多かったのですよね。

今でも冬になると、火の用心の夜回りをする地域もあります。

「二番煎じ」は、寒い冬の夜に火の用心のために集まった旦那衆のお話。

とくに驚くような設定ではないのに、いろんな要素が詰まっている演目です。

様々な角度から掘り下げてみましょう。

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「二番煎じ」のあらすじ

冬の寒い夜、夜回りのために番小屋に町内の旦那衆が集まっていた。

2組に分かれて、交代で火の用心の夜回りをするのだった。

夜回りから戻ってきた旦那たち。

すると一人が懐から瓢箪(ひょうたん)を取り出した。

「風邪をひかないようにと、女房が持たせてくれたんだ」と言ってニヤッと笑う。

番小屋は飲酒禁止なので、真面目な旦那が「おいおい、酒はいけないよ」と注意するのだが、他の旦那たちも鍋を持ち込んだり、猪肉を持参したりで、すっかり鍋を囲む準備をしているのだった。

「酒とは思わず、煎じ薬だと思って飲もう」と皆が調子のよいことを言い出して、いつの間にか宴会のような騒ぎになっていた。

そこへ見回りの役人がやってきた。

酒を飲んでいるのを見つかれば、お咎めを受けると思い大慌てで隠そうとするが、隠しきず・・。

役人が「それは何だ?」と癇を付けるために酒を入れた土瓶をさしてたずねた。

「これは煎じ薬でございます。少し風邪気味のものがおりまして」と言い訳をすると、役人は自分も風邪気味だから飲んでみようと言い出します。

もうこうなっては仕方ないと覚悟を決めて、土瓶から注いだ熱燗の酒を役人に差しだしました。

役人は一口飲んで「まさしくこれは煎じ薬だ」と言って二ヤリとします。

結局、役人は隠していた鍋も食べ、酒も飲み干してしまいます。

役人は「もう煎じ薬はないのか」とお代わりを求めますが「もう煎じ薬はございません」と返したのですが・・。

「そうか、では私はもう一回りしてくる。戻ってくるまでに二番を煎じておけ」

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「二番煎じ」のおもしろポイント

「二番煎じ」は、旦那衆と役人の双方の目線で聞き比べてみると、面白さがまた違う面白さがあります。

旦那衆の目線

旦那衆が番小屋で休憩しようとすると、皆がそれぞれに冷えたカラダを温めるために持参したものを次々に出します。

鍋の具材から酒まで。

この演目の時代設定は江戸時代後期だと考えれていますが、その時代はまだまだ医学は民間療法に頼っていたため風邪だと甘く考えていると命を失うような結果になることも少なくなかったのです。

また、江戸の町は火事になると木造の長屋が密集している地区が多かったため、大きな被害が度々あったと言われています。

家族としては、大黒柱である旦那さんの体のことを心配します。それでも火事も怖いので冬の夜回りがいかに重要なお役目なのかも十分わかっていたのです。だからこそ、風邪をひかないように無事に役目を果たして欲しい気持ちから、体を温めるために持たせたというのもわかりますよね。

しかし、その旦那衆たちは、家族の心配を余所に番小屋で男同士で楽しむ時間に少しワクワクしているような感じが見え隠れします。

番小屋での飲酒は禁止されているのにもかかわらず、こっそりと隠れながら飲むのはスリルが加わってさらに楽しさを増したのではないでしょうか。

役人の目線

役人は、旦那衆が休憩している番小屋に立ち寄り「煎じ薬」と言って隠そうとした酒と鍋をすっかり楽しみ、さらにお代わりまで要求します。

自分の立場を十分にわかった上で、町人たちとの駆け引きをするのです。

なんとも役人とはずる賢いな・・という印象です。

今も昔も、役人なんてそんなものだと思いますが、もっと深読みすればこの役人は他の旦那衆が休憩している時にも同じようなことをしているのではないかと思わせる節があります。

躊躇なく「煎じ薬」といって差し出されたものを飲んでいるところは、「これが初めてじゃないな」と思ってしまいます。

賄賂というほどの大げさなものじゃないですが「黙っておいてやるから、もっと酒を出せ」と無言のプレッシャーをかけているようなサゲが印象的です。

まとめ

「二番煎じ」という落語は、ルールを破る人を見逃す役人という構図が時代を超えて笑えます。

今でもきっと、似たようなことが陰ではあるのでしょうね。

権力をもつ役人の人間レベルは、時代を経ても向上していないのだと思うと溜息が出ます。

しかし、寒い冬の夜回りは、何かご褒美がないとやってられないと思うのもわかりますけどね。

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